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ON AIR♯55 ~のびた身長文庫 重松清「カカシの夏休み」~

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今日は授業はありません。ずっと家にいました。僕にとって休日はどうしても不健康な暮らしになってしまうやっかいなものです。
でも、こんな一日、貴重ですわ。今のうちにゆっくりのんびりしておこう。テストは近いけど、やっぱり何もする気になれず、友達とチャットしたり、ギター弾いたり。久々にラジオをゆっくり聴いたりしました。

しかしさすがに何かやらなきゃいけない、ということで、今、ゼミ誌のための小説をセッセと書いてますハイ。タイトルも決めず、プロットもあまり作らず、冒頭部分だけちょっとずつ。

ちなみに主人公は余命を言い渡されたプロ○スラー(仮)。この物語は結構前から考えてたものなんですが、つい最近、あの方が亡くなられ、実に感傷に浸りながら書いています。


ということで、今回紹介するのは、重松清の「カカシの夏休み」という作品。三篇からなる中篇集。文春文庫にて、590円+税で発売されています。


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まずは裏表紙の解説。

ダムの底に沈んだ故郷を出て二十年、旧友の死が三十代も半ばを過ぎた同級生たちを再会させた。
帰りたい、あの場所に――家庭に仕事に難題を抱え、人生の重みに喘ぐ者たちを、励ましに満ちた視線で描く表題作始め三編を収録。
現代の家族、教育をテーマに次々と話題作を発信し続ける著者の念碑的作品集。


感想へ。

カカシの夏休み
主人公は小学校の教師。もうベテランの域に入りかけた男である。名前は小谷。彼は、小学、そして中学と、「コンタ」という愛称で親しまれていた。しかし、その古き良き日々は、もう、ダムの底に沈んでいる。
そのことを思い出すまいと、彼は毎日を、なんとか暮らしている。決して辛くはなく、安定した暮らし。けれど、彼は、心の底に、ダムの底にある日々のことを常に持っている。
彼には友達がいた。アダ、シュウ、ユミ。彼らはコンタと同じく、あの日々の中で青春を過ごしていた。だが・・・。アダは今、雑誌の編集者として多忙の日々を過ごす。シュウは今、不景気にあえぐスーパーマーケット・チェーン経営を任されている。そしてユミは今・・・
そしてもう一人の友人がいる。名はコウジ。この物語のキーとなる人物だ。大手証券会社からタクシー運転手に転向し、暮らしていた

この物語に常にあるのは、「郷愁と現実の狭間の葛藤」じゃないかと思う。といっても、読めば、誰でも気づくほど、大きく打ち出されているテーマなのであるが。
「郷愁」は自分の好きな言葉であり、これからの僕の人生のテーマでもある。自分にも、小学時代、中学時代、高校時代があったはずだ。戻りたくもあり、戻りたくもない。でも、確実に分かるのは、もう二度と繰り返せない。その日々は今存在しないということだけだ。
「郷愁」と「理想」はよく似ていると僕は思う。「あの頃はよかった」という想い。それは、「あの頃に戻って、もう一度やり直したい」という願望にもなる。そしてその願望は、「やり直せば、違う未来に出逢えるはずだ」という「理想」に繋がるからだ。

本作にはそういう描写がいくつも出てくる。現実を納得しながらも、どこか釈然としない想いが、心のどこかに存在して、それがもどかしくて・・・
それだけなら、誰しも抱えることである。自分だって、親だって、友人だって、そんな気持ちは誰でも持っている。しかし、僕らと彼らで違うのは、彼らに帰るべき場所はないということだ。過去の物的証拠がもはや存在しない。思い切り郷愁に浸って、今を受け入れる、そのための場所がないがために、彼らは不器用な人生を過ごす。

だがそんな彼らのもとに、ある「出来事」が起こり、彼らの想いは、少しずつ変わっていく。そして、彼の現在の仕事にも、あるドラマが起こる。

このお話でうまいと思うのは、主人公たちの過去への郷愁ばかりをしつこく押し出してこないところだ。決して彼らが強がって生きている、というわけではない。これは重松自身の才能か、それともプロットがしっかりしているのか分からないのだが、彼らの葛藤が現実に影響を及ぼすという描写がすごく上手なのである。たとえば、主人公だったら教え子たち、アダだったら多忙な仕事、という風に。

この作品、できれば一日のうちにバーっと読んでしまうことをオススメする。小説にはチビチビ読んで楽しむべきものと、一気に読んで楽しむものとあるが、これは間違いなく後者じゃないかと思う。そのほうが、「カカシ」の意味も分かりやすいし、何よりも、「過去」と「未来」を取り持つ「今日」にこの作品を読むことによって、これからこの作品を読む皆さんが、人生への考え方を再確認しやすいんじゃないか、と思うからだ。少なくとも、僕はチビチビ読んでしまって後悔している。

幸せって、なんですか?

ライオン先生
主人公はまたも教師。だが、教師は教師でも「カカシの夏休み」とはずいぶんと印象が変わる。コメディに出てきそうな、でも、心にはいろんなことを抱えていて・・・そんな先生である。
長髪をなびかせていた、かつての熱血教師としてのプライド。それにすがるように、今はカツラを被り、教師を続ける。だが、彼のその頭は、実にさまざまな歓びと哀しみを被ってきた・・・。そして今も。

これってドラマになってたんですよね、竹中直人主演で!あーちくしょうどうして観なかったんだろう!と後悔。素晴らしい作品ですからね。

安藤っていう一人の生徒と、その親。彼らと、主人公・雄介の交流が、重松らしい優しい文体でつづられながらも、緊張感があって良い。そしてあのラストは、切なくて、おかしくて。でも切なくて。そして希望をもらえる。「確かにそうかもしれないよ、でもな」って言って頑張れる男になりたい、と心から思った。

ドラマそのものとしてはけっこう急展開でクライマックスまで進むなのだが、それを感じさせないのはやはり重松の文章能力だろう。主人公の妻や娘への想いがうまい具合に挿入されているから、スムーズなのだ。本当に上手な人だ、重松清。

未来
主人公は過去にあることを背負っている女の子。その重荷が軽くなりかけた矢先に、弟の周りである事件が起こる。

「善悪」をテーマに何か書けみたいなことが文ゼミで仮だが決まっている。「善悪」をテーマに参考にするなら、先日読んだ「いじめの時間」はもちろん、この作品も欠かせないであろう。

重松清の作品はまだそんなに読んでないのだが、前の二作と違って主人公は若い女性。この作品はもっと若々しい文体で書かれている。前の二作は「諦め」の部分を色濃く出していたけれど、これは若いがゆえの「強がり」が見える。一つ一つの作品で読んだときの印象を変えられるのは羨ましい。これから見習いたいと思う。

この作品は、切なくさせるテーマ、というより、考えさせられるテーマで書かれている。難しくてすぐに答えは出せないけれど、意外なラストを通じて一筋の希望をうまく引き出してくるところはさすが。こうじゃなきゃ物語って面白くない。

うーん、これは僕が変にアラスジとか言ってしまったら、きっとつまんなくなる作品だろうな。だからもう物語の説明はしない!感想だけ述べておいた。それほど作りこまれていて完成度の高い、オススメの作品だ。


とまぁ、読み終わったわけですが、原田宗典以外の男性作家で好きな人が増えたことは嬉しいです。こんなに上手くて、参考になる文をかける人がいたなんて!

宮部みゆきが社会への警鐘を鳴らし続ける作家であるなら、重松清は生きるって何なのだろうか、という難しい小論文の問題に挑戦し続ける作家なんだろうな。前者は「自分には到底できそうもない憧れの存在」、後者は「自分もなってみたい憧れの存在」だ。

湯本香樹実は・・・彼女は作品自体が少ないのでまだよくわからない。いずれにしろファンだからこれからゆっくり調べていこう。

あ、ハラダはもちろん人を幸せにする作家です(笑)


曲は加古隆で「黄昏のワルツ」。
郷愁って、なにか「黄昏」のイメージ・・・。そんなことを思ったら、この曲を思い出しました。インスト曲です。
加古のピアノが切なく奏でられて、否が応でも魂を揺さぶられてしまいます。歌モノも好きだけれど、それに頼らない、音そのものを楽しむことも時には必要かもしれない。インストを聴くときに抱く感情って独特ですからね。
歌詞こそないけれど、このピアノが歌詞となって聴く者に語りかける。そんな一曲。

加古隆のアルバム「風のワルツ」の3曲目にピアノ版が収録されています。
あと、「image」というオムニバスアルバムにはオーケストラバージョンが12曲目に収録されてます。

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  • 2005.07.14 (Thu) 01:48 | 本を読む女。改訂版
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  •   「カカシの夏休み」(重松 清著)【文春文庫】  帰りたい、あの場所に。   ダムの底に沈んだ故郷を離れて二十余年。   旧友の死が、再開した四人の心を照らし出す。 最近、重松清さんの本を読み始めています。 機会があればと前から思っていたのですが、他
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